 | 両チームのみなさん、お疲れ様です。
私は、ディベート学習教材の配信や中高大学生のディベート普及を行っている
ディベートクラブ「たま。」というところで主宰をしている武田と申します。
今回、試合を審判させていただいて、両チーム共、それぞれに良い視点を
もっているなと感じました。
肯定側で言うと、「プラン前後の差」を否定立論への発生過程の質疑の段階から
聞いていましたが、これは非常に重要な視点です。
なぜかというと、これはジャッジがディベートの試合において一番聞きたい
視点であるからです。
ジャッジの仕事はディベーターの議論の末、論題採択後の世界と現状維持の世界のどちらがより良い世界かを判断することです。この点において、「現状維持の世界はこうで、論題採択後の世界はこう」と、差をジャッジに伝えられるようにするだけで、ジャッジは非常に議論の見通しが良くなり、評価しやすくなります。
なので、両チームとも夏に向けて、議論の作成、スピーチの練習において、
現状とプラン後の対比を意識していくと良いと思います。
一方、否定側の議論のアプローチの仕方として良かったのは、
肯定側のプランに対して質疑をして、「肯定側のプランで安楽死はどのように
実行されるのか」という点を考え、反論につなげていた点です。
今回の論題は、チームによって、プランの立て方も十人十色です。
問題が起きないようにと条件を厳しくしていけば、その分安楽死の実行も
難しくなるという裏表の関係があります。
オンラインディベートより実際の試合の方が臨機応変な対応は難しくなるかと思いますが、その都度、その都度、プランが試合でどう機能をするのかという視点を持っておくことは、自分たちの議論を有利に進めるひとつのポイントに
なるかと思いますので、意識していって欲しいなと思います。
それでは、判定に移ります。
まずはメリットの評価からです。
はじめに、全体に対してなされた反駁に関してです。
苦しむ前の安楽死は条件の�，鉢�に矛盾するからできない、また、病名の診断は難しいので安楽死の実行が遅くなるという議論がありました。
ここに関しては、否定側のロジック自体は否定されてはいないので、プラン後、安楽死が行われるのは、間違いなく不治の病と分かってからで、肯定側の言うように
苦しみ始める前に安楽死をするというのはできないととりました。
現状分析は、A）肉体的苦痛とB)精神的苦痛に分けて苦痛が論じられていました。
否定側から主になされた反論としてはデメリットの1枚目の資料も絡めながら、
鎮痛後も死を望むほどの苦痛が残るのか、セデーションで苦痛が取り除けるというのが主な反論でした。
現状で痛みがとれるのかどうかは次のように判断をしました。
現状で行われている鎮痛は少なくとも限界がある、というのも、否定側の用いている資料は9割、肯定一反で引用された後藤さんの資料では6割、ということでしたが、今回の試合では、肯定二反のスピーチの１〜４割は痛みがあるという話を
とりました。
また、立論段階から述べている、全体的な痛みや痛みとは異なる苦しさ、精神的苦痛に関して、セデーションの議論がありましたが、今回はなぜ、
どのようにセデーションによって、こうした苦痛が除去されていくのか、説明が
不足していおり、これだけで問題ないと結論できないと判断しました。
よって、現状に問題は残ります。
次に発生過程は、
苦痛を感じながら死ぬことが解決するという話でした。
ここには小さいという反論がありましたが、つらく生きている期間から開放されるという肯定側の主張をとりました。
よって、プラン後は末期で不治だと分かってから死ぬまでの期間は苦しまなくてすむようになる人がでてくると判断しました。
次に重要性の議論です。
安心感がうまれ、家族とのコミュニケーションややり残した事ができるという話でしたが、否定側の指摘するように、これは現状でできないのか疑問が若干残りました。ただ、できているという反証もないので、安心感が生まれ、心にゆとりが生まれた分は今よりはやりやすくなるといったレベルで評価しています。
また、苦痛の解放による重要性でないという反論がありましたが、これはそのとおりだと思います。しかし、苦痛の期間が短くなること自体の重要さは
常識的な範疇で評価をしています。
結果、メリットは不治の病だと確実に分かってから、死ぬまでの苦しみを取り除き、安楽死という選択肢を与えることで、いくらか希望を与えるものだという風に
評価しました。
続いて、デメリットに移ります。
まず、現状の苦痛の話に関しては先ほど触れたように、痛みは現状ではとりきれないと評価しました。
続いて発生過程です。
まず、１、精神的苦痛の増大ですが、現状でもインフォームドコンセントがあるという反論がありましたが、今回は、これで完全にプラン前後で問題の差がないという風にはとっていません。
肯定側の引用した資料からは、すべての病院で告知が行われているととるには根拠が不足しているのに対し、プラン後は、安楽死の条件を満たす過程で100%告知が
行われるようになる分、差はいくらかあると判断しました。
よって、プラン固有に精神的苦痛は増大する部分はあります。
ただし、それがどの程度かは曖昧な感じです。
続いて、２、安易な安楽死の視点Aです。
絶望から安楽死を選んでしまうということでしたが、これは１からどのくらいつながるのかわからないというのは肯定側の指摘する通り曖昧だととりました。
次に視点Bですが、これは安楽死が美徳になる証明がないという
肯定側の反論をとりました。
しかし、長い目で見て、安楽死がどんどん行われていけば、発生する可能性はなくもないと思います。よって、限りなく小さく発生すると評価しました。
また、ここに対する反論で、「常識的に考えて、ない」という反論がありましたが、「常識」は意外と人によって違うので、これはしっかり根拠を説明して反論して欲しいと思います。
次に深刻性ですが、反論が特に無かったので、
精神的苦痛を与えたり、不必要な安楽死が起きてしまうのは良くないととっています。
ただ、肯定側もそうですが、国家としての政策を争う論題なので、重要性や深刻性に「国家としてどう重要なのか」という視点を入れると重要性に重みが出て良くなるかと思うので、考えてみてください。
よって、デメリットは、精神的苦痛はある程度起こるけど、
望まない安楽死を引き起こす可能性は低いと評価しました。
さて、最後に判定です。
短期間でも確実に痛みを取り除き、いくらかの希望をもたらすメリットと、
ある程度の精神的負担を引き起こすデメリットですが、
今回は、肯定側第二反駁で出された「確実性」、また、問題の重要さを
加味しても、メリットの方が大きいと判断し、
肯定側に投票しました。
以上です。両チームの皆さん、お疲れ様でした！！
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講評・判定
/武田 (10/05/21(Fri) 06:52) [#13]